Story
ニューヨーク市警殺人課きっての伊達男、トラント警部補が出くわす、謎また謎の華麗なる冒険――
上流階級に生まれ、法曹界での栄達を約束されていたティモシー・トラントは、輝かしい将来をすべて擲ち、大学卒業後、ニューヨーク市警への奉職を決めた。それは尋常ならざる謎、そして抜け目ない犯罪者との知的闘争を愛するがため。刑事らしからぬ優雅なファッション、そして上流階級へのコネクションに不満を抱き「上流階級専門の刑事」と陰口を叩く同僚たちなどどこ吹く風、トラント警部補は今日も趣味の殺人事件捜査に勤しむのであった。
トラントが殺人事件と遭遇するのは……大金持ちの誕生パーティ、上流階級専門の女子学校、往年の名女優のアパートメント、友人たちと興じるカードのテーブル、劇場のオープニング・ナイト……すなわち、ニューヨークにおいて、優雅と上品が極まった場所だ。あるいは、アルプスのスキーリゾート、ヴェネツィアの豪邸、リビエラの、煌びやかなカジノとは対照的に静まり返った港湾区画……どんなに麗しい場所であっても人と人とが交わる限り、殺人は決してなくならない。上流階級の殺人の、フーダニット/ハウダニット/ホワイダニットは、ティモシー・トラント警部補の論理きらめく頭脳におまかせあれ!
エラリー・クイーンに続く、もう一つの合作コンビ《Q・パトリック=パトリック・クェンティン》によって第二次大戦後に展開された、謎解きミステリの精華たるシリーズ二〇編を集成。
Commentary
解説・三門優祐
一九四二年にアメリカ合衆国に帰化したウェッブとウィーラーは軍に徴兵され、ウェッブは南太平洋の戦場にて、弱視のウィーラーは国内の軍事施設にて、それぞれの立場で戦争に参加していく。そのため、チームでの新作執筆は滞り、ティモシー・トラントものの新作が書かれることもなかった。
一九四五年、ウェッブの帰国と併せてチームが再稼働すると、ウィーラーは「ティモシー・トラントシリーズの作品をもっと書こうじゃないか」と積極的に働きかけたという。それにより、本書に収録された優れた中短編が次々に生み出されていくことになったのである。
巻末解説より抜粋